近年「フリーランス」という働き方が注目されていますが、歯科業界でも「フリーランス衛生士」という新たな働き方に関心が高まっています。
家庭や子育てと両立しながら、働く時間や働く場所を柔軟に選択したい、自分の技術を最大限生かしたい、ワークライフバランスを重視したいなど理由は様々です。
一方で、歯科医院が「フリーランス衛生士」と業務委託契約を結ぶ場合は、契約内容など慎重に検討しないと、後々トラブルに発展する可能性があります。
今回は、歯科医院が「フリーランス衛生士」と業務委託契約時に気を付けるポイントや注意点についてまとめました。
業務委託と雇用契約は何が違うのか?
まず、労働基準法の「労働者」について確認しましょう。
労働基準法では以下の基準で「労働者性」が判断されます。
- 労働が他人の指揮命令下において行われているかどうか、すなわち、他人に従属して労務を提供しているかどうか
- 報酬が「指揮命令下における労働」の対価として支払われているかどうか
この2つの基準を「使用従属性」と言いい、使用従属性が認められる場合は業務委託契約とはなりません。
「使用従属性」は請負契約や委任契約などの名称ではなく、実態に基づいて判断されます。


では、具体的に使用従属性の有無は、どのように判断されるのでしょうか?
①仕事の発注者から、勤務時間や勤務場所を管理されている状態にある場合
・シフト表にて、勤務日、勤務時間が決められており、休日の変更は所定の手続きを取らないと認められない。
・直行、直帰をする場合に、社員同様の手続きをしないと認められない。
・10分前出社を求められていた。
・社内規程を渡され、記載されている業務時間通りに遂行することを求められた。
②仕事の発注者が業務内容や進め方に具体的な指示をしている場合
・契約書に業務内容が細かく指定され、毎日のレポート(日報)の提出を求められていた。
・発注者側の都合で業務内容を変更されることがあった。
・空き時間ができた時に別の業務にも従事していた。
・業務の進捗状況について、報告することが求められていた。
Point!
雇用契約は、使用者の指揮命令のもとで働く契約
業務委託契約は、企業が特定の業務を外部の企業や個人に業務を依頼する時に結ぶ契約
契約書に「業務委託」と書いてあっても、実態が雇用契約に近ければ「労働者」として扱われます。
「フリーランス衛生士」の働き方とは?
それでは、フリーランス衛生士として、具体的にどのような働き方があるのかを見ていきましょう。
- 自費の売上アップを目的としたコンサルティング
- セミナー講師
- 研修講師
- SNS集客、資料作成の代行
- 自宅ホワイトニングサロン
- 個人の専門性や技術を生かした限定的な業務、自費診療など
このように、コンサルティングや研修、講師といった分野では、個人の能力や技術を生かし、誰かの指揮命令を受けずに活躍している衛生士もいます。このような業務は自由度が高く、フリーランスとして成り立ちやすいと言えるでしょう。
税金・社会保険料の負担軽減を目的に安易に導入するリスク
人件費や社会保険料の負担を抑えたいという理由から、歯科衛生士との契約を雇用ではなく業務委託にできないか、と考える歯科医院もあるかもしれません。
しかし、税金や社会保険料の負担軽減だけを目的に、実態は雇用に近い働き方のまま業務委託契約を結ぶのは危険です。裁判例でも、契約名ではなく実態が重視され、東陽ガス事件や株式会社MID事件では労働者性が肯定され、未払賃金等が争点となりました。
具体的には、労働者性が肯定され、賃金未払等が争点となった裁判事例があります。これにより、企業は「委託料」の問題ではなく、割増賃金を含む賃金債務として争われる可能性があります。
労働者性が認められると、未払残業代や社会保険料の負担だけでなく、有給休暇や解雇規制への対応、訴訟・行政対応なども必要となり、企業にとって想定以上の金銭的・実務的負担が生じる可能性があります。
患者トラブルが起きた場合の責任の所在はどうなるのか
歯科医院では、鋭い器具を使用した診療が行われます。
業務委託しているフリーランス衛生士が処置中に器具で患者さんの口腔内を傷つけてしまった場合、その責任の所在はどうなるのでしょうか。はたして衛生士本人だけのものと言えるでしょうか。
歯科衛生士業務は歯科医師の指示のもとで行われる場面も多く、患者さんから見れば、その処置は「その歯科医院で受けた医療行為」です。したがって、委託契約であっても、医院側がまったく無関係とは言いにくく、事故後の説明や対応が求められる可能性があります。
逆に、業務委託しているフリーランス衛生士が業務中に器具で怪我をしてしまった場合、直ちに自己責任とは言い切れません。
実態として労働者性が認められれば労災保険の対象となる可能性があり、フリーランスであっても、現在は労災保険の特別加入制度がありますが、とくに歯科衛生士業務は歯科医師の指示のもとで行われる場面が多いため、契約名だけで判断せず、実際の働かせ方まで含めて検討することが重要です。
クリニックが業務委託契約時に確認しておきたいポイント
- ①支払いや報酬を明確に決めておく
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報酬額や支払日、交通費の扱い、キャンセル時の取扱いなどは、事前にしっかり決めておくべきポイントです。
この部分が曖昧なまま契約を始めると、後から「聞いていた条件と違う」といったトラブルになりやすくなります。信頼関係がある相手であっても、口約束だけで済ませず、書面で確認しておくことが大切です。
契約外の追加業務が発生した場合についても、「都度協議する」など曖昧な表現は避け、事前にしっかりと決めておきましょう。 - ②秘密保持条項・個人情報の取り扱いについて契約書に定める
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フリーランス衛生士が患者情報に触れることがある場合、秘密保持契約や個人情報の取扱いに関する条項をあらかじめ定めておくことが重要です。業務委託契約では、守秘義務の範囲だけでなく、閲覧できる情報の範囲、医院から患者情報の持ち出し禁止、漏えい時の報告方法、契約終了後の情報返還・廃棄まで明確にしておく必要があります。
- ③委託する業務内容を明確に決める
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委託する業務内容は、事前に双方で明確にしておくことが大切です。業務の範囲が曖昧なままでは、追加の対応や契約外の業務をめぐって、後から認識のずれが生じやすくなります。
フリーランス衛生士との業務委託契約は、働き方の選択肢を広げる一方で、契約内容や実際の運用を誤ると大きなトラブルにつながるおそれがあります。特に、通常の歯科衛生士業務は診療体制との一体性が強く、単に「業務委託」としてできるものではありません。業務範囲や責任分担、秘密保持、トラブル時の対応まで事前に確認し、契約の名称ではなく実態に合った形で慎重に検討することが大切です。

